よく法律資格の登竜門として宅建と並んで名前が挙がる行政書士ですが、未だに「行政書士は食えるのか食えないのか論争」を各地で目にします。先述のとおり、5,6月は司法書士の特別研修をやっていて、そこで自分の班は6人だったのですが、なんと自分以外の5人は全員行政書士の資格を保有(うち2人は開業)していました。

そこで色々と行政書士のリアルを聞いてきたので、はたして食えるのか食えないのかリアルな声を届けたいと思います。


・行政書士って何するの?

行政機関に出す書面(主に許認可書面)を代理して提出するのがメインのお仕事です。じゃあ「行政」って何だよ?と問われると意外と深い質問なのですが、一般的には司法(裁判所)・立法(国会)以外の公的な機関というのが一般認識のようです。市役所や町役場、警察や保健所、公立の学校や図書館も行政といえば行政になります。そういうところに出す書面を代わりに作成してもらうことになります。


・行政書士って食えるの?

行政書士って職業が存在して、実際それで生活してる人がいる以上、トータルで見れば標準的な生活がおくれる程度には食えるのは当たり前でしょう。こんな聞くまでもないことをなぜ未だに論じているのかが謎極まりないです。

ただあまりにも主語がでかいですよね。

「マンガ家って食えるの?」と聞かれれば、ワンピースやドラゴンボール描いてる人もいれば、風呂なし4畳半の部屋で細々と描いてる人もいるわけです。これって質問として成り立ってないですよね。
なるべくゲスイ話を避けたい日本人の性質はわかりますが、だったら最初からストレートにリアルな額やコスパを聞けよと。
「行政書士って儲かるの?」「年収いくらなの?」って(笑)
自分はそういうことストレートに聞いちゃうタイプなんで、現役の人たちに聞いた話をお伝えできればなと。

まず食えるか食えないかでいえば食えます。それは間違いないようです。ただ食えるようになるまでに時間がかかるというコストが存在します。

これは行政書士に限らず士業全般に言えることなのですが、定年がないので上が抜けていかないとう現実があります。加えて行政書士は毎年5000~6000人もの人間が新たに合格しているため、全員が行政書士の業務をやるとは限らないことを考慮しても、これは相当な顧客の奪い合いになることが想定されます。
さらには、行政書士の業務内容として、車庫証明のような一期一会な仕事もあるにはあるけども、基本的には一蓮托生パートナー的な業務が多いため、新人の行政書士に仕事が落ちてこないという問題があります。
みなさんも一度行政書士に仕事をお願いして、よほどの問題が発生しない限りはもう一度同じ先生に仕事をお願いするでしょう。「前回はこっちの行政書士に頼んだから、今度はこっちの行政書士に頼んでみよう」とはならないわけです。実はそこらへんが単発型の仕事が多い司法書士とは違うところなんですね。もちろんそれは一度顧客さえつけば継続的な収入が見込めるというメリットでもありますが、とにかく新規参入のハードルの高さというのが行政書士の最大の問題点のようです。
雇われ行政書士というのも、都内のよほど忙しい行政書士事務所でないと存在しないようですし、行政書士になるということはほぼ独立前提になるわけですが、それなのに新規参入が難しいという矛盾、ここに食えないというイメージが定着したのかなと自分は推測しています。

行政書士として満足して食っていくためには、試験に合格したあと開業して、5年10年、下手したら20年とか地道に種まきしてようやく果実が実るかな、という現実が待っているようです。それに耐えられるような人ならけっこうですけれども、話を聞く限り30~40前後の働き盛りの人間(特に家庭持ちの人)にはとてもじゃないですけど、オススメできるような商売ではないようですね。


・行政書士ってコスパいい?オススメ?

行政書士の先生には申し訳ないですが、自分はコスパいいとは思いませんし、オススメもしません。それいったら司法書士もなんですけど(苦笑)一番コスパいいのは若い時にたくさん勉強していい大学入っていい会社に就職することです。いい年した大人になって「コスパいい資格って何?」とか言ってる時点で、お前すでにコスパ悪い人生おくってんだって。(もちろん大人の資格取得を非難しているわけではないです)

というわけでコストがそこまでかかるわけではないにしても、パフォーマンスを発揮するまで時間がかかるわ、仕事内容は地味だわ、新規参入は厳しいだわで、基本的にオススメはしないんですけれども、限定的にこういう人なら行政書士いいんじゃないの?と自分が考えるタイプとしては

・親族が行政書士事務所を開業していてそれを承継するケース
・数十年単位で地元の商工会などとの付き合いがあり、最初からある程度の顧客が望めるケース
・試験に合格したのが10代とか20代前半とかで種蒔き時間にマージンがある若い人、もしくは老後の頭の運動&年金の足しにしたいという人
・事務作業で独立したいけど司法書士はあまりにも難しすぎるという人
・収入額についてはあまり気にしない、少なくても数年程度は小遣い程度の収入でもかまわないという人

以上のような人なら行政書士もアリかなとは思いますけど、周りの話を聞く限り働き盛りのいい大人がこれで家族食わせていくぞ!と目指すような資格でないことは間違いないと思います。
(家族が5年10年新卒以下の収入で我慢してくれるなら別です)


・行政書士と司法書士ってシナジーある?

まず試験についてですが、司法書士試験の午前の部については殆ど行政書士の範囲と被っているので、多分行政書士試験に合格してる人は数か月程度仕込めば基準点(足切り)超えるぐらいにはいくと思います。
ただ午後の部は全くの未知の領域であり、内容も別次元なので、結局行政書士試験合格者でも司法書士試験に合格するのは数年単位は覚悟した方がいいです。一応参考までに我が班の司法書士試験の合格年数がコチラ。

2年(行政書士合格者)
4年(行政書士合格者兼開業者)
6年(俺)
12年ぐらいが2人(行政書士合格者)
20年近く(行政書士合格者兼開業者)

以上のように「行政書士に合格したから次は司法書士を目指そう!」とかそんなライトなテンションで目指していい試験ではないのです、司法書士試験は。
これは自慢ではなく「忠告」です。多少試験問題や勉強内容にシナジーがあるのは事実ですが、それ以上にズレてる部分の方が多いので、行政書士試験に受かった人は司法書士試験に受かりやすいとかそういう現実はあまり感じていません。
それよりも司法書士試験の合格要素は単純に勉強時間とか年齢とか、それこそ運の要素とかの方が大きいかなと感じますね。
というわけで人生でもっとも貴重なリソースである「時間」を年単位で投入する可能性が大なので、行政書士に受かったから次は司法書士だ!と安易に考えてる人は、一度立ち止まってジックリ考えてみることをお勧めします。行政書士試験とはマジで別次元なんで。

業務についてもですが、これもシナジーはあまりないと感じてます。
そもそも管轄が違いますし、業務内容も似てる部分よりも違う部分の方が多いかなと感じてます。
中にはダブルライセンスとして司法書士・行政書士事務所としてやっていく人もいるようですが、1日24時間しかないわけで、技術の習得や知識の学習など、業務を遂行していくうえで重要な要素がどっちつかずになってしまうのではないかというリスクの方がデカいかなと感じてます。だったら各々の資格保有者が複数人集まって総合事務所としてサービスを提供していく方が現実的かなと感じてます。
(個人的にマルチライセンス業には否定的です)

以上の理由により、まったくシナジーがないとは言いませんが、片方受かったからもう片方も取っておいた方がいいよとか、そういうレベルでのオススメは全くないですね。当り前ですけど自分がやりたい業務の資格試験受けるのがベストだと思います。



・結論

行政書士トータルで見ればそりゃ食えることは食えるけども、新規参入が相当に厳しいので、働き盛りの人が脱サラしてとかは絶対にやめておいた方がいいと思います。まだ履歴書賑やかにしたい程度の理由の方が損害が少なくてマシだと思います。(もちろん前述のとおり最初からある程度の顧客が望める特殊な環境にある人は別です)

小遣い目当てとするにも、だったらそこらへんでバイトでもしてた方が多分収入も多いし責任もない上に試験もないわけで、わざわざ行政書士に手を出すこともないのかなと。

結局これは行政書士に限らず士業、引いては資格商売全般に言えることなんですが、自分の腕一本で食っていくって事はよほどの覚悟が必要なんですよ。「〇〇士って食えるの?」とかそもそもトンチンカンな質問してる時点で、士業の先生方からはけっこう腹の中で呆れられてる可能性大なんで気を付けた方がいいです(ぉ)

なんか散々なことを言ってしまったような感がありますが、行政書士の先生方、スイマセンでした。
行政書士試験合格を目指して勉強している受験生の方々、合格目指して頑張ってください。以上です。